2010年1月10日:「韓国の美をたどる旅」を読んで
「韓国の美をたどる旅」

著者 ぺ・ヨンジュン

写真 ぺ・ヨンジュン


あるインタヴュアーから、「韓国でお勧めの旅行先や名所はありますか?と聞かれて、すぐに答えられなかった、自分の国、韓国文化を余りにも知らないと思った。いつか、韓国の素晴らしい文化を自分が学びながら、紹介する本を書きたい」そう思った、それは、自分に与えられている人気に対して何かお礼が出来ないか、と考えた一人の男が、1年かけて、ファン(家族)との約束を守った、その結果がこの本だ。


思ったより、文章を書くということは、大変なことだった、と述べた彼は誰あろう、私たちを韓流へと導いた韓国俳優のぺ・ヨンジュンその人だった。


      

だからと言うわけではないが、それ程にも思って居なかった、
読み始めてすぐにそんな考えは消えて、思わず惹き込まれていった。

それは何故か、

彼がとても謙虚だということがよく判るから、
文体から、また被写体として選んでいる写真からもそのことがとても伝わってくる。


そして、韓国文化の様々を取上げているが、先ず最初に取上げているのが『家庭料理』というのがまたうれしかった。

お母さんの作ってくださるご飯の力が最高だ。
シック(食口)とは家族という意味、一緒にごはんを食べるということ、それが家族の別名だったのではないか。

どんな素晴らしい外食より、家族の愛がたっぷりこもった真心のお膳にかなうものは無い。

ああ、私も惰性になりつつあった、三度の食事作りに愛をたっぷりこめなくては、と思わされた。


分厚い韓国の文化を書いた本の冒頭が、『お母さんの作ってくださるお料理が、本当に何よりも素晴らしい』という言葉で始まることが、本当にうれしい。

家庭の料理から、韓国の醗酵食品のキムチへと話が続く。ヨンジュンさんが実際にキムチを作る、その前に、ゴシレ(高矢禮)をする。食べ物の神様に、感謝の気持ちを伝える儀式、この心を大切にする彼が作った東京のレストランの名前が『ゴシレ(高矢禮)』なのだ。


続いて韓服、ここでは紅花染め、を紅花餅作りから初めて布を染めることを体験している。


ヨンジュンさん自身が写っている写真は、誰かが写したのだろう、
しかし、そうでない写真は、ヨンジュンさんが写したのだ、その写真が素敵だ。
ポシャギが吊るされていて、風にはためいている、そのポシャギの透け感が本当に美しい。

イ・ヒョジェというデザイナーの作。そこに、ポシャギと同じようにして作ったブラウスが一枚ある。
何とも素敵だ。はぎれをつないで作ってある。爪よりも小さい布切れも、と書いてある。
そして、モンドリアンの抽象画のよう、と書いてあるのがまたうれしい。
モンドリアンの幾何学的な絵とその透明感ある色彩が私は大好きなのだもの。この自然の色、生成りのブラウスが光を通す時、様々な色が見て取れる。まるでモンドリアンの絵のように・・・・


続いて

漆 

以前、ご紹介した本「魂」の著者・全龍福さんの所へ弟子入りをして体験したヨンジュンさんです。この全龍福さんが復元されたという雅叙園ホテルの漆工芸品を是非、見てきたいと思っています。


韓紙

とても持ちの良い韓紙、韓紙は1000年持つと言われている。世界最古の印刷物とも言われているお経があるそうだ。西暦751年の刊行、

グーテンベルグが活版印刷術を発明したのが1445年ですから印刷に関しては東洋が進んでいた。(一説には木版印刷および活字印刷が史上初めて行われたのは中国だと言われている。記憶に新しいところでは、チャンイーモー監督のもと、繰り広げられた北京オリンピックのデモンストレーションの中に、この活版技術を紹介するくだりもありましたね。人海戦術に驚きましたが)

韓紙の製法はとても難解で、高度な技術と共に高価なので、なかなか普及はしない、今は一部を現代的な作りに代えて、インテリアに使うこともある。また寿命が長いと言うことから政府の重要文書などの印刷に使われる。

先日の「日韓次世代映画祭」にゲストとして来られたパク・チュンフンさんの次回作が、この韓紙を作る執念の人をテーマとした映画だという。是非、見たいと思う。


その後、お寺、お茶と、納得のいく韓国の文化を見せてくれている。

お寺のくだりでは、慶尚北道の銀海寺、百興庵(ウネサ、ペクンアム)という尼寺で過ごした話が愉快だった。解憂所(ヘウソ・・・トイレ)の話、外部から来る人のトイレと、尼様たちの使うトイレは別になっている、それは何故か、尼様たちのトイレのものは、畑の肥料に使える、でも、化学物質を多量に食べている外部の人のそれは、使えないそうです。いかに、今の食生活が、そういう意味で汚染されているかがはっきりと聞けて、考えさせられた。


お茶、緑茶、韓国では普通には余り飲まないのかしら?「値段が高くて難しい」と普通の人々はいうらしい。しかし、美しい茶畑も私たちは知っている。あの「夏の香り」の宝城の茶畑。そして、お茶は韓国から日本へ伝えられた。

そのお茶を飲む器、陶磁器の話に続く。戦乱の続いた日本で武将たちが平安を求めて一服の茶をたしなむ、その時に珍重されたのが、井戸茶碗、韓国の粉青磁という茶碗で、官窯ではなく、韓国のあちこちで作られていた日常雑器なのだが、日本では珍重された。新年に見たテレビ(日本と朝鮮半島2000年)でも、詳しく語られていた。陶器作りを体験したヨンジュンさんは今では家にろくろを置いているという。(ちなみに私もろくろは持ってるんですけど・・・・出番が一度も無いんです!)


続いて「千年の古都・皇龍寺跡、弥勒寺跡」の記事になる。ここを読んでやはり韓国の古都慶州(キョンジュ)には行ってみたいと思った。慶州は今から1500年前に既に都市計画によって作られていたそうです。そして、80万人の人が住んでいた。今の韓国で100万都市が8つあるとか。そのことを思うと1000年前に80万という人口が住むためには、政治経済が本当に確立していないと収集のつかない人口です、当時にいかに整った国政がされていたかが偲ばれます。

昔の新羅の皇龍寺跡には礎石の痕跡だけがあるという。ああ、行ってみたいです。日本でも、私は、都府楼跡や、西都原古墳群など、人工のものが無くなった跡を見ることで、当時の様を想像する、想像力を掻き立てられるその雰囲気が好きだ。是非、見に行きたいと思う。

皇龍寺から、弥勒寺跡のある益山(イクサン)へ向かう車中でヨンジュンさんが聞いたというバッハのゴールドベルク変奏曲のアリア、この調べは、皇龍寺跡の風景を思い出させるそうです。

バッハといえば、息子が就職して最初にパッヘルベルのカノンを買って、父親にプレゼントした、夫はそれがとってもうれしくて、大事に大事にしています、なんてことも思い出した。

新羅の皇龍寺跡に対しては百済の弥勒寺跡がある。百済は遺跡と史料がもっとも不足している国だという。それほど、三国時代の争いで壊滅的に葬り去られた国なのだろう。しかしそのために、技術を持った人たちの多くが日本へやってきた、かえって日本に百済の面影や史料が数多く残っているそうだ。

そして、この弥勒寺を創建したのが、若い頃、ソドン(薯童謡)とソンファ(善花)という名前で呼ばれていた王と王妃とのこと。びっくりでした。今、私は丁度「ソドンヨ」というドラマを見ています。まだ新羅のソンファと百済のソドンヨが別れ別れの所です。だから、結末も知らなかったのですが、このソドンが後の百済の第30代武王となり、その王妃に敵国の新羅から善花姫がやってくる。

なんて凄いロマンチックなお話なんでしょう。そして、優れた百済の科学技術、その研究の過程などもドラマには一杯出てくる。(つい先日は、韓紙発明のエピソードの回だった)敵国に嫁いできた姫を慰めるためにこの弥勒寺が建てられたのか、弥勒寺は武王が王妃に贈ったタージマハールだったのではないかと、ヨンジュンさんは書いている。

とにかく、武王と王妃を語るヨンジュンさんの筆が優しさに溢れているのだ。丁度今、2人が国を隔てられて、辛いところにストーリーが来ているドラマを見ている私は、その優しい語り口に、涙がこぼれてしまった。

             


その後、お話はハングルを発明した世宗大王のこと、景福宮のこと、国立博物館、が取上げられています。

国立博物館でのハイライトは韓国に二体、日本に一体の半跏思惟像に関する記述。

造られた年代も不明、そして、新羅のものか、百済のものかも不明、日本の木造仏も同時代のものらしい。かくして、韓日両国の学者の論争の的となっているらしいが、そんなことより、この仏様の前に静かに立つことが一番大事なことでしょう。韓国と日本とそれほどまでに密接な交流があったことは隠れも無い事実です。日本のそれは日本の国宝第一号であり、韓国のそれは、韓国国宝の78号と83号です。それらは韓国の「考える人」と紹介しても良いのではないか?と語るヨンジュンさんでした。


そして、韓国のお酒、古酒と、ワイン談義もおもしろかったです。良い物は良い、単純明快です。


最後は韓屋(ハノク)、韓屋を作るのは土、石、木、韓紙など全て自然の一部であり、自然に帰れる材料、そして構造としては、縁側がある開放的な空間、軒の優雅な曲線、裏山の稜線に似ている屋根の棟の線が何とも自然と調和して良い。

ウェル・ビーイング(well-being)から更にエコロジー(ecology)を追求する時代に入っている時にこの韓屋は真のエコロジーハウスとして注目される時が来た。しかし、真の韓屋を建築することはとても高価だそうです。それほどまでに、自然からの素材が貴重だということ、また技術を扱える人が希少だということでしょう。お金で買えるものと、買えないもの。そこの見極めも今の時代とても大事なのだと思いました。


最後に本を書き終えたヨンジュンさんが人は何故旅に出るのか、『人生の意味を振り返り、美しい縁を抱いて帰ってくることができる、』と書いている。自然に向き合い、巨大な遺産の前で、深い芸術の魂の前で、向き合う自分。それは自分の魂に向き合うことなのだと思う。



この本を読んで、本当に触れてみたい場所、物が出来た。しかし、触れることができない、しかし、真に大事なもの、それは韓国の魂だと思う。「冬のソナタ」のぺ・ヨンジュンさんによって、韓流の世界を知り、「春のワルツ」のソ・ドヨンさんに導かれた私、韓国は、昔から私にとっては、身近な存在ではあった。パソコンやインターネットの世界としての興味が大きかった、しかし、真の韓国の魂に触れるためには、もっともっと韓国のこと歴史や文化を知りたいと思った。その今がインターネットの世界になっているのだから。それと同時に、自分の住む日本のことも、もっともっと興味を持って知ることが大事と思った。



新年にあたり、良い本が読めたと思う。
心血を注いで書いてくださったヨンジュンさん、ありがとう。
そして、この本をすすめてくれた友人にありがとう!です。
       2010年1月 Mie