第28回ゆふいん音楽祭ききどころ
21世紀になって、どうやら少しづつ世の中が変わりつつあるようです。毎日同じ時間が流れているような湯布院にも、大きな変化の兆しが。何…とはまだはっきり言えませんけれど、近いうちに、湯布院町民が創るこの小さな音楽祭も、大きな転機を迎える気配。
そんな変化の予兆を前に、今年の夏もお馴染みの夏がやって来ます。中世、ルネサンスの合唱曲、リュートの響き、バロックのチェンバロ、そして古典派の精妙な音楽的思考。昨年、前夜祭で人々を驚かせたパントマイムの若き天才が、これまた湯布院の若者やボランティアに人気のコントラバスの若大将と共演する、夢のような舞台も用意されています。
まずは25日、木曜日の晩好例の前夜祭。河野監督以下、出演者全員勢揃いです。
翌日は中世からバロックの日。昼間は竹井成美率いる大分中世音楽研究会が、ルネサンスの響きで癒しの時間を演出してくれます。「聖フランシスコ・ザビエル帰天450周年」と題された今年は、ザビエルが九州に蒔いた種を辿るばかりか、ルネサンス舞踏の日本での権威、ダンスリー合奏団で活躍するリュートの高本一郎がゲスト出演。楽しいルネサンスの午後となることでしょう。ギターとはひと味違った爪弾きをお楽しみあれ。
大気も少しは冷たくなった晩には、駅前から無料送迎バスに揺られ、盆地を見下ろす湯布高原ゴルフクラブへ。壮大な夕暮れが迎えてくれるかも。チェンバロの大家小林道夫が、楽しい解説を交えつつ、お得意のバッハを披露してくれます。この春から湯布院町新住民となった小林からの、改めてご町内への挨拶です。小林宅で修行する若きバリトン松原友が、バッハの独唱カンタータを披露するのは新機軸。この辺りに新しい湯布院への息吹が感じられるかも。この日は大忙しの高本一郎のリュートは、ここでも活躍する予定とか。
27、28日の週末は室内楽三昧です。今年の大注目は、27日の昼。湯布院町の若者に圧倒的人気のコントラバス奏者「我らがガンちゃん」こと黒木岩寿が、いよいよ満を持して舞台の中央に登場します。コントラバスのパガニーニと呼ばれるボッテジーニの作品を堪能する前に、なんとなんと特別ゲスト、パントマイムのサルバトーレ神山との大パーフォーマンスがあるとのこと。フランスの洒落た奇才がモーツァルトのあれこれをコントラバスに移す、と聞くだけでもうワクワクしますが、そこにあの精密で、でもどこか寂しさも感じさせるパントマイムが絡むのですから、これはもう必見です。チケットの手配はお早めに。
その晩は、河野音楽監督がこれまた練りに練った舞台、ゆふいんサマーアンサンブル。今年はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽三重奏。これ以上どこも無駄がないところまで響きをそぎ落とした、スーパー精密な合奏体です。ある意味では弦楽四重奏以上に練習が必要で、それ故に名演が少なく、演奏も猛烈に難しいこのジャンルに敢えて挑み、河野文昭が10年間務めた音楽監督としての総決算を見せてくれます。
昨年からお馴染みのヴァイオリンの玉井菜採に、初登場のヴィオラは植村理一。長年イタリアのクァルテット・フォネで活動、この若さで室内楽の専門家となって帰国した植村が、湯布院の夜にもピリッとした厳しさを持ち込んでくれるかも。モーツァルトの最高傑作のひとつでありながら、演奏の内面的な難しさ故に生で接することの少ない長大なディヴェルティメントは、絶対にお聴きのがしなく。
音楽祭を締めくくるフィナーレ・コンサート。前半は「音楽の故郷」湯布院町の新たな顔小林翁が、世界の歌手たちが絶賛した比類ない「ピアノ伴奏」の至芸を、改めて地元にお披露目してくれます。後半は、ゆふいん音楽祭音楽監督河野が満を持してバッハの無伴奏組曲をとうとうゆふいんで披露するのが目玉。若手のホープ玉井のブラームスも聴きもの。派手さとは無縁に音楽で語り合う夏の午後のお喋りは、ゆふいんならでは。音楽の素晴らしさをいまさらながらに確認したら、金鱗湖の畔でのフェアウェル・パーティに繰り出すとしましょうか。
ゆふいん音楽祭広報部 音楽ジャーナリスト 渡辺 和 2002年5月
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