大分市:永野美恵子
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三月のはじめ、湯布院へ春を探しに出かけたが昨夜も雪が降ったということで由布岳は麓の方まで霧氷の花が咲いていた、しかし頬をなでる風は今までの肌を刺す冷たさとは違ってどこか太陽の温かさを感じさせてくれる。
玉の湯は木立の中にある、石畳の道伝いにきれいな水の流れている小溝がある。その流れのそばにはもう蕗が小さなまあるい葉を広げている。寒い湯布院で、、と思うがこの溝を流れているのは温泉なのだ、日本では別府、草津に次ぐ湯量を誇る湯布院ならではの景色。 今日のお昼は玉の湯の葡萄屋。打ち水をされた玄関先はすみれの鉢が一杯並び頭の上は今が盛りの梅の花、そして立ち止まる私の足を温泉煙が巻いている。 |
テラスの見える窓際の席に案内される。丸い低いテーブルが寛ぎの気分を一層深めてくれる。サンルームのような部屋は静かなピアノ曲が流れあちこちにさしてあるミニバラやアネモネ、スイトピーが気分まで春満開にしてくれる。
窓の外はクヌギの裸木が青空に自由に腕を伸ばしている、しかしそれはもう冬の寂しさではなくて芽吹きの前の勢いに溢れている。 枝越しに見える由布岳はベールをかぶった貴婦人のようだ。 今日のメニューは今しかお目にかかれない雛膳、菜の花やせり、蕗のとう、さんしょ、青豆など春は香りでやって来る。豊後牛は柔らかく、地鶏焼きはあくまで確かな味、ワインと共に味わう。きれいに盛られたちらし寿司は箸でくずすのが申し訳無いようだけど、おいしくおいしく雛の春をいただいた。 |
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いつも笑顔のお女将さんの喜代子さんがやさしく声を掛けて下さる。デザートは場所を変えて召し上がれ。時代物のお雛様の見事な段飾りの置かれた廊下を出るとフロント、そこには
若女将の和泉さんがにこやかにでもテキパキと電話をさばいていらっしゃる。
その前の一段高くなったロビーでカボスのシャーベットを戴く。横の壁は一面書棚になっていてきっと和泉さんが小さい時に見てらしたと思われる絵本や童話が並んでいる。 そんな本をパラパラ見たり外の中庭をながめたりする、そうそういつだったか玉の湯でのミニコンサートに誘われた時にこの中庭に大きな壺がおいてあり見事な秋が生けてあった。今はまだ枯れ芝だけどほらクロッカスが咲いている、やっぱり春をみつけた。 今度はこの芝が緑になり、クヌギの若葉が太陽とたわむれるそんな季節にテラスの椅子に掛けてみたい、と思った。 |
由布院温泉 玉の湯 "葡萄屋” 電話:0977ー84ー2158 Fax:0977-85-4179