永野美恵子
青空の中に霧氷で化粧した由布岳が輝いている。そんな日は心底湯布院は冷えている。 しかし、町中を流れる川はところどころ湯気をあげて流れている。そう、ここ湯布院は 温泉の町、あふれる温泉は川にも注ぎこみ湯煙をあげている。 | |
手をこすりこすり川添いの道を散策して私のお気に入りのスポット、“ことこと屋”にたど
り着く。ちょっとひずんだ輝きの手漉きガラスがはめ込まれた木のドアをギイイと開けると、暖かい空気に
乗ってコーヒーの香りが冷たくこわばった頬をなでる。
私のお気に入りの席はカウンターの右端、奥の調理場から美佐子さんがひょいと顔を出し こんにちわいらっしゃい。また来ました、と私。 いつものコーヒーと、そう、今日は野苺のアイスクリーム。 |
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昨年の初夏、やっぱり今日のように一人でブラリときた時、調理場の外にまで真っ赤な木苺の入った
大きなザルがあふれていた。開け放された勝手口からは甘酸っぱい香りが惜し気もなく流れている。
美佐子さんはお手伝いの女性と二人でザーーザーー水を変えては木苺を洗っていた、そばの大鍋では
フツフツと、ことこととジャムが出来ている。
そう、だから、この店は“ことこと屋” 今朝、採れた木苺は今日のうちにジャムにするの、半分は冷凍するのと美佐子さん。 |
その木苺を使ったアイスクリーム。 口の中に初夏の陽光が広がる、リモージュのカップに注がれたコーヒーが体を暖める。
ゆっくり部屋を見渡す。
天井の太い梁。なめらかに靴底で磨かれた木の床、大きいテーブル、楕円の、円形のアンティークの ティーテーブルに椅子がゆったりと置かれている。 三三五五集う人はあたかもそこが自分の部屋のようにくつろいでいる。 昨日も一昨日もここに座っていたかのように私もゆっくりと銅のサーバーからコーヒーの お代わりをした。 |
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