最終章 My inmost thoughts
~ユジンへ~30
もう、遅いんだ…
僕はそうとわかっていながら、
君のアパートへ車を走らせた…
何を言うために走ったんだろう…
何を言えるというのだろう…
でも君に会いたいと思った…
逢ってどうするというのだろう…
今、回答は出ない…
ユジナ…
でも…
君はサンヒョクといっしょだった…
サンヒョクの車の中に居る君を見ていると…
もう僕は君と一緒に居る事はできない…
そう思うしかなかった…
いろいろな事にもう終止符を打たねばならないのだろうか…
母さん出発見送る時、
彼女は僕が来ないのではないかと心配しているようだった…
母さんはこのあまりにも短い時間の間に
若い頃に自分の犯した過ちと悲しみを
息子である僕の前で明らかにしなくてはならなかった…
そして息子の悲しみまでも背負わなくてはならなくなったと
思うと…
この人も哀れでならなかった…
僕は何も言わず彼女の肩を抱いた…
僕はあなたの息子です…
あなたのこぼれるばかりの愛情を受けた息子です…
だから、もう…
僕の事は心配しないでください…
彼女の体がいつの間にか小さくなってしまったようだ…
母さん、僕は必ず後から行きます…
時間…
ぼんやりと浮かぶ景色…
残された僕の時間…
父さんと出会った事で
悲しみは増えてしまった…
でも。僕を取り巻く人達ももっと傷つけてしまった…
「お前が現れる前の状態に戻してくれ…」
そういって出ていったサンヒョクの目には涙があふれていた…
僕は彼から全てを取り上げてしまったのだ…
高校生の頃の僕は、父親を独り占めしている彼が許せなかった…
彼の周りの温かい空気が恨めしかった…
その温かい空気の中に
ユジナ…
君が居た…
はじめはユジンと一緒に居る事で彼に嫉妬させるのが目的だった…
でも…
それは違っていた…
僕は本当にユジンを愛してしまった…
そして…
10年の時を経て…
もう一度、君に出会った時も…
ユジナ…
君を愛してしまった…
僕が君を愛する事で…
傷をつけた人々…
そんな事ももう終わりにしなくちゃならないんだ…
もう僕はユジンを守る事はできない…
それならせめて、君を温かく守ってくれる
サンヒョクに…
ユジナ…
君の顔を見てこの事が言えるかどうか…
本当は自信ないんだ…
でも…
そうしないと、駄目だと思った…
手術をして直るかどうかわからない…
それなら…
君のくれた「不可能の家」…
今、まだ目が見えるうちに
僕の手で形にできるところまで
準備しておこうと思った…
僕の手で、僕の目で…
僕の光がなくなるその日まで…
僕は君の心を感じて
描く事にするよ…
そして…
君の姿を僕の目に
僕の心に焼き付けておこうと思った…
そして…サンヒョクのこと…
もう会えないかもしれないユジナへ…
My inmost thoughts…
アメリカに発つ前の日
もう一度君に会うチャンスをありがとう…
君に会えて…
言いたい事はあるのに…
ずっと君を見ておきたかった…
ユジナ…
君はいつも輝いていたのに…
僕は最後まで守ることができなかった…
悲しませてばかりだったね…
もう、言わなくちゃ…
サンヒョク…
君を守ってくれると思うから…
いっしょにサンヒョクと…
君の顔が曇っていくのが判る…
僕はひどい事を言ってるんだね…
でも…
今の僕にはもう…
もう…君の未来を
見守る事が出来ないんだ…
君の嫌がる顔を見たくない…
僕だって…本当は言いたくない…
体を大切にして…
強く生きて…
君の涙で滲む瞳を見つめながら…
僕達の最初で最後のあの海での思い出だけを
大事に覚えておこう…
ユジナ…
僕の気持ちわかるよね…
僕の頬を涙が伝うのがわかる…
最後まで君の姿をはっきり心に焼き付けたいのに
滲んで見えない…
コマゥオ…
帰ろうとしたときに君が僕の服を掴んだ…
僕の背中は寂しく見える?…
ごめんね…ユジナ…
君の方がユジンの側に長く居られるから…
サンヒョク…
今、僕には本当にそう思えるよ…
………
三年…
僕は君の帰ってくる日を待っていた…
僕に光はなくなってしまったけど…
空気の温度でわかるんだ…
君の声がする…
元気そうだ…
ユジナ…
君の笑顔がこんなに詳しく僕の心にわかるんだ…
ちっとも変わってないね…
僕は見えなくなったほうが君の心の中までも見えるようだ…
君の作った家は外島につくっておいたよ
きっとびっくりするだろうね…
誰が君のデザインを盗んだかって…
君の声が聞こえてきそうだよ…
光がなくなってから
僕の体中が僕の目になった…
一歩一歩歩数を数えれば、距離もわかる…
両手を広げれば角度だってわかる…
音を聞けば方角だってわかる…
でも、
ピースを落としてしまって、
探し出す事はできなかった…
ひとつひとつ思い出をつないでいく
ジグソーパズル…
ひとつだけ落としてしまったのは…
まだ僕に未練があるから…
君との思い出に…
しかたないかな…
この家は君の望むものになった?
気に入ってくれるかな?
僕は君との思い出に…
思い出の中の君の瞳に話しかけているようだね
「互いの心が一番の家ですから…」
この家は、君の心に近づいたのだろうか…
でも…
君に会うこともない…
僕は忘れ物をとりに戻ってきた時…
さっきと違う空気を感じた…
そんなはずはない…
そんな…
僕の心は否定してもしきれない…
もう光を持たない僕の瞳から
涙があふれてきた…
ユジナ…
ユジナ…
君の心を感じるよ…
僕は…
君の体を、唇をこの手で確かめた…
逢いたかった…
ユジナ…
ずっと逢いたかった…
僕の心を照らしてくれた
君の心の光に…
もう二度とその光を曇らせないように…
僕の体中で抱きしめた…
My inmost thoughts ユジンへ…
完
あとがき…
"冬ソナ"は皆様のそれぞれの思いと解釈のほうがもっとすばらしいものだと確信しております。
お粗末な私の稚拙な文章には不満も多いかと思います。
ここでお詫び申しあげます。
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました。
m0041(^_^;)
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